帳簿価額はなぜ時価と違う?
取得原価主義と時価評価の仕組みを解説
「貸借対照表の金額=すぐ売れる金額」と思っていませんか? 実際には帳簿価額と時価(換金可能価額)は一致しないケースが多くあります。これは日本の会計制度が「取得原価主義」と「時価評価」を併用する「混合測定モデル」を採用しているためです。
本コラムでは、なぜ乖離が生じるのか、その背景と実務上の注意点をわかりやすく解説します。
1. 取得原価主義とは?
取得原価主義とは、資産を「取得時の価格(+付随費用)」で記帳する方法です。100万円で購入した機械は帳簿でも100万円からスタートし、減価償却で徐々に価値が減っていきます。この方式は客観性・信頼性に優れていますが、市場価格の変化は反映されません。
2. 時価評価とは?
一部の資産(上場株式など)は市場価格に基づいて時価で評価されます。ただし、すべての資産が時価評価されるわけではありません。
3. なぜ帳簿価額と換金価額がずれるのか?
評価方法 | 目的 | 対象資産 |
---|---|---|
取得原価 | 信頼性・客観性 | 固定資産・棚卸資産 |
時価 | 有用性・関連性 | 売買目的有価証券など |
4. 資産別:乖離の実態と処理方法
資産の種類 | 会計処理 | 換金価額との一致 |
---|---|---|
固定資産 | 取得原価+減価償却 | ×(乖離あり) |
棚卸資産 | 取得原価 or 正味売却価額の低い方 | △(一部反映) |
売買目的の株式 | 時価評価(損益計上) | 〇(一致) |
子会社株式 | 取得原価 | ×(乖離あり) |
その他有価証券 | 時価評価(純資産直入) | △(P/Lに影響なし) |
5. 実務上の注意点
- 固定資産は再評価不可。上昇分は帳簿に反映されない。
- 金融資産は時価評価でも、損益 or 純資産のどちらに反映されるかが異なる。
- 貸借対照表だけでなく、注記やOCIも確認が重要。
6. 今後の会計基準と展望
IFRSでは時価評価の範囲が広がっており、日本基準も改正が期待されています。ただし、取得原価主義の信頼性も根強く、混合測定モデルは当面続く見込みです。
まとめ
帳簿価額と換金価額が一致しない理由は、資産ごとの会計処理の違いにあります。経営判断や投資判断では、こうした会計の前提を理解することが不可欠です。
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